仮面福祉会

できることを切り売りしています

戻っておしまいになりたい

前髪がのびている。爪ものびている。刻一刻と常にのびているのだろうが、のびたな!と気付く瞬間が毎度あるのが、何十年と生きていてなお面白い。

といいながら、面白がるのは、気付くのに気付き始めてまだ慣れていないからだ。本当に小さいときは、「自分」の意識がなく、うっとおしさや不便さを感じながらもなるがままで、大人にコントロールしてもらわないとどうにもならない。

そして歳をとるにつれいつか、「自分」の意識がないところに戻るんだろう。

 

ちいさな王様、という本があった。

確かその王様は、大人の大きさで産まれて、どんどん小さくなる、という話だった。小さくなるだけなら無限だよなと読んだ当時から疑問だったが、実際の人間も、最後は縮み子どものようになるのは同じではないかなと、折りに触れ思い出す。

 

引っ越す前に、商店街のカット屋さんで前髪だけ切ってもらいたいが、閉店までに帰れる日があるかな。

 

受けている昇進試験の面接の日。

就職の時と同じラインナップの上役が並ぶ前に座る。当たり前だがこういう場が久しぶり過ぎて戸惑う。平熱で始まったはずが、質問に答えながら次第に演技じみて、段々「面接を受ける人」になっていくのがわかる。いま喋っているのは本当に私なのか、曖昧になるほど。加えて真意や考えが掴めない問いが多く、最後にはちょっとまいった。今日自分が言ったこと全部の責任を取らねばならないとしたら、だいぶしんどい。

 

本部に行くのにほんの数分外に出るにも風が冷たく寒かった。

道場で弓を引く母はことさら修行だったらしく、夜はキムチ鍋であった。