仮面福祉会

できることを切り売りしています

ただ居るだけ

自分で決めることなく、今いる辺りに住みつき生活をして30年ばかり経ってしまった。30年も住めばまごうことなき地元民で、例えば下町ドラマなら近所の商店街のおばちゃんと顔馴染みで云々とか、地域の祭りで御輿を担ぐみたいなイベントが起こりそうなものだ。しかし驚くほど全く全然安心感も馴染みもない。隣家の人の名前も知らない。小中学校の同級生の連絡先も知らない。

そうかあれもファンタジーだったんだな。

商店街の、多分1番古かった店が閉店していた。小学生のときに1度ぐらい使ったことがあったかもしれない、手芸品を売るお店で、店内が暗くて並べている品もいつから置いてあるのかという古さだったので、今か今かという感じであったが、今か。この商店街にはそうやってシャッターを下ろしたままになり上の階をただ住まいにしている元店がいくつかある。時折できる新しい店は大体飲食で、数年あっては大抵いなくなってしまう。そこに特段の感傷はなく、冴えないなぁと受け流しながら30年過ごしてきた。

私が想像してきたものは、いずれ交差する世界と思っていたが、ほとんどパラレルワールドだったんだな。

電車の中でじゃれ合う男女を見ても同じことを感じる。

 

大学の教授に、恋文のように推敲を重ねたメールを送った。

 

帰宅する頃には雨が降っていた。

牛乳と卵を買ってきてくれと連絡をもらいスーパーに寄る。何となく赤玉卵を買って帰ったが、思い返すと家で赤い殻を見た記憶が、ないな。何と意識の低いことか。それは私が卵が嫌いだからです。自分が食べないものを買う、ということのおつかいらしさを噛み締めた。

 

敷布団にただ転がって寝る。サーキュレーターはよした。