仮面福祉会

できることを切り売りしています

嗜好の沼が口をあけていますよ

既にしつこいぐらい言っている「桜の森の満開の下」のシネマ歌舞伎を見てきた。
改めまして、とにかく夜長姫が最高です。
七之助が夜長姫をやっているのは夢の具現化である。

あのように、脈絡なくとにかく無邪気で残酷であることへの憧れがある。それは特に思春期から成人するまでの流行病みたいなものだと思っているから、大人になった今は単純に恥ずかしくて公言するには憚られる。
しかし野田秀樹みたいな人が大勢の前で表現しているのだから、ちょっとだけ大きい声で、ああいうの、いいよねと言って、オタクに浸ることができてありがたい。演劇は、現実世界だと揶揄されてしまいそうなことも芸術だと言い切って全力で飲み込んでしまえるところがいい。

映画が終わって、隣りにいた男女のうちの女の子が、全然わからなかったけど何故か泣いてますと状況説明をしていて、わかる、って思った。わけがわからないが感情の胸ぐらを掴まれてガクガク揺さぶられるようだ。

出てくる役者の中に、この人はいまいちだったなというのがなく没入できるのと、様式的にとにかく美しいというのは歌舞伎の実力がでかい。しかしそこにあれほどの含蓄が加わることは歌舞伎にはなくて、野田版の唯一無二のすごさだ。
そのように何層にもすごいが重なってくるので、わけがわからないが泣くということになる。加えてそもそも自分は勘九郎七之助が2人きりで歌舞伎座の舞台にいるという光景で泣けるから、もうひどいもんだ。

歌舞伎座に一緒に見に行った友達と、帰る道みち、頭おかしいかったねと喜んでいたのを思い出した。多分もう一回見る。